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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)127号 判決

一 請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告の主張する取消事由の有無について検討する。

1 取消事由の1について

(一) 原告は、第一引用例のものは実施不能である、と主張する。

成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例にはつぎの記載があることが認められる。

「14は下底板部を前記台板6上に定着したコ字形の支持座で、図示のように前記パイプ1上に載置した前記上型5を押え金15を介して押圧するためのハンドル16を備えたネジ杆17を上板部に螺着している。」(第一頁左欄一九行~二三行)

「このようにしてパイプの挿着と支持が終れば直ちに前記上型5をパイプ1上に乗せて上方のハンドル16を回し押え金15を介して上型5を押圧する。)(第一頁左欄三五行~三七行)

「前記上型5を適宜上昇させてこれを取除き、図示鎖線のように枝管部3が形成されたパイプを下型7より抜き取り、」(第一頁右欄九行~一一行)

以上の各記載によれば、第一引用例のものにおいて、ハンドル16を備えたネジ杆17は、押え金15を介して上型5を押圧するための装置であり、上型5はハンドル16を回して押圧する前にパイプ1の上に乗せ、また、適宜上昇させて取除くことができるものであるから、ネジ杆17と上型5とは固着されておらず、したがつて、ハンドル16を備えたネジ杆17は、上型5を上昇させる装置ではないことが明らかである。右の、上型5をパイプ1の上に乗せ、または取り除く手段は、第一引用例には示されていないが、前示認定の記載のように、適宜の手段(人手あるいは昇降のための装置)によればよいことが判る。

そうすれば、上型5を枝管部の軸線方向に昇降させることは充分に可能であり、成形品を破壊することなく型から抜き取ることができる。

また、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、「前記枝管部3を作るための凹欠部4を内面に有する昇降自在の上型5〔前記凹欠部4は上型と下型との重合面において両型に跨つて設けてもよい〕……」(第一頁左欄一二行~一四行)と記載されており、凹欠部4を両型に跨つて設ける場合を考えると、凹欠部の中心線を上型と下型との重合面と一致させるように設計すること、換言すれば、凹欠部を有する上型と下型とが面対象となるように設計することも当然あることであるから、この金型の場合は上型を垂直に昇降させても成形品を破壊することはない。

原告の主張は理由がない。

(二) 原告は、第一引用例の成形法は膨出成形であつて、吹込成形ではない、と主張する。

成立に争いのない甲第八号証の三によれば、吹込成形法とは、熱可塑性プラスチツクの材料を押出成形機で管状に押出し、その先端を金型の一部で挾んで封じてから、管の内部に圧縮空気を吹込んで膨張させ、金型の内壁に密着するように膨張させ、中空体を成形する方法であると認められる。

前掲甲第四号証によれば、第一引用例のものは、管の両端開口部内にそれぞれ栓金具を挿入して、該栓金具と割り型との間に管の両端開口部を圧着挾持し、気密に封塞しており(第一頁右欄三九行~四四行)、管の先端を金型の一部で挾んで封じていないから、厳密には、右の吹込成形法に該当しない。

ところで、本願発明のうち第一発明は、樹脂管の先端を管状のまま閉塞しているが(第一発明の要旨)、成立に争いのない甲第二号証によれば、その明細書中においては、「吹込成形用型内で樹脂管を吹込成形するに当つて、本発明においては、」(甲第二号証第二頁左欄一四行~一五行)「吹込成形用型内に導入された樹脂管の管内に高圧空気を吹込むに当つては、」(同第二頁左欄二〇行~二一行)と説明されていることが認められ、これを吹込成形法であるとしている。

第一引用例のものは、前記のとおり、厳密には、吹込成形法の定義には該当しないが、他方、樹脂管を金型内に挿入してその端を封じ、樹脂管内に圧縮空気を注入して樹脂管を金型の内壁に密着するように膨張させて成形している点では、前記認定の吹込成形法と一致している。

以上の諸点を考えると、第一引用例のものは、熱可塑性樹脂の吹込成形法の変形方法であると認めるのが相当である。

原告は、これを膨出成形法であるというが、本件に顕われた全証拠によつても、熱可塑性樹脂の成形方法に吹込成形法と異なる膨出成形法という方法があるとも、第一引用例のものがその膨出成形法に当たるとも認めることができない。

(三) 原告は、第一引用例が便槽の製造と全く関係がない旨を主張する。

成立に争いのない乙第一号証によれば、第二引用例のものは硬質塩化ビニール(熱可塑性樹脂)製の便槽であつて、その製造方法は記載されていないが、図面によれば、便槽本体と底板部とは厚さが異なること、底板部が便槽本体とは別体として示されているところから、便槽本体と底板部とはそれぞれ別個に製造され、その後結合されているものと認められる。

成立に争いのない甲第七号証によれば、本願発明の出願前から、吹込成形法により、熱可塑性樹脂を用いて、五七〇リツトルもの大容量の容器が製造されていることが認められる(同号証訳文第二頁一二行~一三行、第三頁下から二行~一行)。

また、第一引用例に記載のものは、枝管付排水管であつて、第一発明の製品である便槽とは、形状、構造、機能等において相違するが、前記(二)の項における認定のとおり、第一引用例のものは熱可塑性樹脂の吹込成形法の変形方法であつて、その成形法は、第一発明と同一の技術分野に属する方法である。

以上のように、第二引用例には熱可塑性樹脂製の便槽本体と底板部とを結合した便槽があり、本願発明の出願前からすでに大容量の容器が熱可塑性樹脂を用いて吹込成形法により製造されている(甲第七号証)のであるから、大容量の容器の一種とみることのできる便槽の製造に吹込成形法を用いること、及び、第一引用例はその製品が便槽とは形状、構造、機能等において異なるものではあるが、その成形法は吹込成形法を変形したもので第一発明と同一の技術分野に属するものであるから、その技術を便槽本体の成形に転用することは、いずれも、当業者にとつて充分容易であるというべきである。

原告の主張は理由がない。

2 取消事由の2について

(一) 原告は、第二引用例には製造方法が全く記載されていないから便槽の下端開口部を密閉するに際し密閉物を便槽本体と初めから一体のものとして作つているのか、別個に作つたあとで嵌めているか分明でないと主張するけれども、前記1の(三)に認定のとおり、第二引用例記載の便槽は、便槽本体と底板部とを別個に製造し、その後これらを結合したものと認められるから、第二引用例には、便槽本体の下端開口部に密栓を施すことが記載されているということができる。

原告の主張は失当である。

(二) 原告は、第三引用例の記載内容が技術的に矛盾していると主張する。

成立に争いのない甲第六号証によれば、第三引用例のものはプラスチツクス瓶、容器の製作方法であるが、その説明中に、「ポリエチレンは不透明で、印刷なども困難であり、しかも塩化ビニールなどに較べると気体の透過率が可成り大きく、常温で気化性の物質、またはそのような物質を含むものの瓶容器としては不適当であり、」(第一頁左欄一七行~二一行)との記載がある一方、

「なお、本法において使用される熱可塑性プラスチツクスとしては、塩化ビニールのほかに塩化ビニリデンアクリロニトリル、メタクリル酸エステル、ポリエチレン、またはこれらの共重合物がある。」(第一頁右欄二二行~二五行)との記載があつて、

前者の記載で瓶容器の材料として不適当であるとしているポリエチレンを、後者の記載では瓶を製造する本法の材料中に他の材料と共に挙げている点で矛盾するかのようではあるが、前者の説明は、ポリエチレンが常温で気化性の物質の瓶、容器の材料としては、塩化ビニールなどに比して不適当であると述べているにとどまり、ポリエチレンを用いると瓶を製造できないというものではなく、また、後者には、ポリエチレン以外の材料も例示されているから、第三引用例の内容が技術的に引用しえないものであるとすることはできない。

つぎに、前掲甲第六号証によれば、第三引用例には、特許請求の範囲に、「底付けして」との記載があり、その説明中には、「(第五工程)別に同じく塩化ビニールプラスチツクスで底板Jを形成して瓶Bの底部に嵌合し、接着剤または熱溶融によつて接合する。なお、この底板を省略し、瓶胴bの下端縁を合着することもある。」(第一頁右欄一七行~二〇行)との記載があることが認められる。

右の「底付け」が、底板を底部に嵌合することのみを意味するのか、底板を省略し瓶胴の下端縁を合着する場合をも包含するものであるかは必ずしも明確でないが、仮に前者のみであるとしても、説明中に包含されうる右二つの場合のうち、一方のみをその特許出願に当り特許請求したものとみることもできるので、右の点は矛盾するものとはしえない。

また、前掲甲第六号証によれば、第三引用例のものは、「原筒をそのプラスチツクスの軟化点以上溶融(流動)以下の温度で加熱して軟化しつつ内部に空気を圧入して拡開することにより、所望の瓶の最大径部よりもやや大径の中間筒を成形し、つぎに、この中間筒を所望の瓶の内面形状に等しい瓶型に外嵌し、再加熱することにより中間筒を熱収縮させて瓶型の外面に密着させ冷却」(第一頁右欄三三行~三九行)するものであり、原筒から中間筒に拡開する際は、筒の各部分につき変形倍率が同じであるから偏肉現象は起らず、中間筒を瓶形に加熱収縮する際は偏肉現象の起ることが予想されるが、その偏肉が吹込成形によるものよりも一層大きくなると認めるに足る証拠はない。

さらに、前掲甲第六号証によれば、第三引用例においては、その瓶が吹込成形による瓶よりも気体透過性が少なくなる旨説明されている訳ではないし、また、接着面においては間隙の発生が必ず起るものでもないから、第三引用例の内容が技術的に不当であるとする原告の主張はいずれの点においても失当である。

(三) 原告は、第二引用例と第三引用例を互いに関連させて考えることは容易でないと主張する。

前掲甲第六号証によれば、第三引用例は、熱可塑性樹脂製の瓶、容器の製作方法であつて、例示されている瓶の大きさは、瓶口径が二三ミリメートル、胴径が三五ミリメートルであり(第一頁右欄二一行~二二行)、第五図からみて瓶長は六、七〇ミリメートルであり、したがつて、内容積は多くとも〇、一リツトルを超えない程度のものと認められ、便槽とはその大きさが著しく相違するが、第二引用例の便槽と第三引用例の瓶とは、熱可塑性樹脂で成形される容器であるという共通点を有しており、熱可塑性樹脂についての成形技術の一般的状況を徴し、これらを関連させて考えることは容易であり、原告の主張は当らない。

(四) 原告は、第二引用例と第三引用例を関連させても、便槽本体の下端開口部に密栓を施すことは容易でない、と主張する。

しかしながら、前記(一)のとおり、便槽本体の下端開口部に密栓を施すことは、第二引用例に記載されているのであるから、第三引用例を引用するまでもないことである。

また、第一発明の便槽本体は吹込成形法によつて製造されたものであるが、その下端開口部に密栓を施すことは、容器とするために必要な工程ではあつても、便槽本体の成形方法自体とは技術的な関連性のないことである。すなわち、いかなる成形方法によつて製造したものであつても、下端が開口している成形物品は容器にならないから、これを容器とするために底を封じるのは当然のことである。そして、第二引用例に熱可塑性樹脂製の便槽があり、第三引用例に熱可塑性樹脂製の瓶筒に底板を嵌合接着して瓶、容器とする技術がある以上、下端が開口している便槽本体の下端開口部に密栓を施して便槽とすることは容易に想到しうることであると認められる。

以上、いずれの点からみても、原告の右主張は理由がない。

なお、第二引用例の便槽胴部を第三引用例の方法によつて作ることができないことは原告指摘のとおりであろうが、本件審決は、第二引用例の便槽胴部が第三引用例の方法によつて製造できるとしてはおらず、第二引用例と第三引用例とは、熱可塑性樹脂で作られた容器に関するものであるという共通点を有し、第三引用例の技術(瓶胴に底板を嵌合接着して瓶容器とすること)を第二引用例のものに適用することは容易であるとしているのであるから、この点についての原告の指摘も失当である。

三 以上の次第で、原告が本件審決の取消事由として主張するところはすべて理由がないので、本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 熱可塑性樹脂管が軟化点以上流動点以下の温度範囲にある状態において、樹脂管の先端を管状のまま閉塞して、樹脂管の少なくとも一方の開口端より管内に高圧流体を吹込むことにより樹脂管の管壁を吹き膨らませて便槽本体を形成し、下端開口部に密栓を施すことを特徴とする熱可塑性樹脂製便槽の製造方法。

2 熱可塑性樹脂管を吹込成形用型内に導入し、該樹脂管が軟化点以上流動点以下の温度範囲にある状態において、樹脂管の先端を管状のまま閉塞して、樹脂管の少なくとも一方の開口端より管内に高圧空気を吹込むことにより、管壁を吹き膨らませて、側壁の内周方向に沿つて外方に突出する突条状膨出部が突設され、かつ、側壁の下半部に外方に突出する突起状膨出部が突設された便槽本体を成型し、かくて成型された便槽本体を吹込成型用型内から取出し、該便槽本体の突起状膨出部の先端部を切断して吐出管受口となし、該吐出管受口内に熱可塑性樹脂製吐出管を挿嵌し、該吐出管と前記吐出管受口とを接着剤にて接着し、下端開口部に密栓を施すことを特徴とする熱可塑性樹脂製便槽の製造方法。

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